野菜や果物を用いた回想と作業療法
重度の認知症になると会話が難しくなり、長く傾眠される方は珍しくありません。そのような方は食事も介助を必要とする場合があります。日常でできることは少なくなり、ぼんやりと過ごす時間が増えます。
作業療法では、何かできることを見つけて、短時間でも何かを行ってもらうことに価値をおいています。何もしないでただ座っているだけでも、その方は大変価値のある存在ですが、その方に少しでも何かできる時間を作る、作業をしてもらう作業療法があります。
往々にして認知症の方は昔に行ったことならば認知症になってもできる傾向があります。
しかし、認知症が重度になると昔に行っていたこともできなくなります。会話が成り立たない、ぼんやりと眠っているような重度の方に、野菜や果物を触れて、嗅いでもらうと、それらが触覚や嗅覚を刺激する感覚刺激となり、認知症の方は目覚めて会話ができる場合があります。例えば、発話がほとんどない認知症の方で、りんごが好きな方にリンゴに触れて、嗅いでもらうと「いい香り」と短いコメントを言われる場合があります。調理が好きな方に大根を渡すと、「大きい大根」などと単語を言われることがあります。何かを手に持つと、その持った物が感覚刺激となり、その感覚刺激で記憶がよみがえり、大根を使った調理方法を思い出して話せる方もいます。
作業療法では、回想して話してもらうことや、昔に行っていたことを思い出して作業をしてもらうことに価値をおいています。野菜に触って昔を回想し、実際に野菜を洗っていただき、切っていただくことで、さらに昔のことが思い出されます。このように、回想を通じて少しでもできることを見つけて、作業を行ってもらい、認知症の方にお礼を申し上げると笑顔で反応される方もおられます。
作業療法の分野では、何かを行っている対象者を作業的存在(occupational being)といいます。作業療法では何かを行ってもらうことに価値をおいています。しかしながら、仕事を抜きにしますと、個人的には、その方がいてくださればそれだけでいい、存在自体で充分価値があると思えます。
鎌倉は重度の認知症患者に対して「彼らは放置されれば無為の状態に陥るが、適切な支援があれば何らかの充実した時間を過ごすことができる人たちである。」と述べているように、一瞬でも充実した時間を過ごし、人生の最後に一言でもその人らしさを引き出すことを目指して、回想や作業療法が行われる場合があります。介護職員やリハビリ職員(作業療法士、理学療法士、言語聴覚士など)の支援があれば、野菜の写真を見る(視覚)だけではなく、触覚、嗅覚など様々な感覚を使うことで、重度の認知症の方も回想や作業ができることがあります。
参考文献 鎌倉矩子(2001)「作業療法の世界」三輪書店
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